書籍レビュー: 変身!『ギリシア神話』 訳・編:石井桃子
★★★★★
ここで関連書籍として紹介した「ギリシア神話」です。石井桃子さんは2008年に亡くなった有名な児童文学者・翻訳家です。101歳まで生きてます。
原著はイギリス・アメリカの子供向けギリシア神話本です。
- 作者: Lilian Stoughton Hyde
- 出版社/メーカー: Yesterday's Classics
- 発売日: 2008/09/30
- メディア: ペーパーバック
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すげーなamazonに在庫あるのか
つまり、二重翻訳ということになります。しかし石井さんは文学者の重鎮ですので日本語に全く乱れがありませんさすが。小学校高学年がターゲットとのことですので一気に読めます。
岩波ジュニアの方で解説されていた、頭から誰を生んだだの吐き気がしそうな神々の誕生秘話は根こそぎカットされ、種々の神々や英雄を主人公とした短いお話がてんこ盛りです。富山妙子さんによる必ず横向いてるのが特徴なギリシャ風の挿絵もとてもいい雰囲気を出しています。
ギリシア神話はいわゆる「むかしばなし」ですのでよくある典型的なクエストものの話が多いです。例えば勇敢なヘラクレスを妬んだエウリュステウス王がヘラクレスに12の無理難題を言い渡し、ヘラクレスがあちこちバケモノ退治をして歩く話なんかまんまドラクエとか、ジョジョ第三部みたいな構成です。女神アプロディテの怒りをかったプシュケがあれ取ってこいそれ取ってこいといくつもの難しい仕事を押し付けられるのも、珍しい贈り物を次々と要求するかぐや姫的です。嫉妬、傲慢、勇気、不条理、昔話には物語のテンプレがつまっているようです。
いちばん印象に残った話はエコーとナルキッソスの話です。
エコーはおしゃべり好きなニンフ(女妖精)で、口が滑ってゼウスの妃である女神ヘラに失礼なことを言ってしまいました(何て言ったのか気になる)。ヘラは怒り、エコーを他人が喋った言葉の最後を繰り返すことしかできないようにしてしまいました。エコーはかなしくなって森の奥に姿を隠しました。
あるとき森の中にイケメン・ナルキッソスが現れました。エコーはドキリンコ。この後の物語を石井桃子役でお楽しみください。
ある日、ナルキッソスは、森の中で、友だちとはぐれてしまいました。耳をすますと、木のあいだで、なにかサラサラという音がします。
「だれだ、そこにいるのは?」
と、ナルキッソスがさけびました。
「そこにいるのは?」
と、エコーがこたえました。
「わたしは、こっちだ。おいでよ。こっちへ来る?」
と、ナルキッソスがいいました。
「こっちへ来る?」
と、エコーはこたえました。
そして、エコーは、木のかげからそっと出ていきました。ナルキッソスは、出てきたのが、友だちではなくて、知らないニンフだとわかると、びっくりして、いそいでにげだしました。
エコーは、それからというもの、出あるくことも、人にすがたを見せることも、二度としないようになりました。そして、かなしみのために、からだがだんだんやせほそって、消えてなくなり、とうとう、声だけになってしまいました。
うそーん。
かなしすぎ。
こうしてエコーは英語のechoと同じ存在、山びこになってしまったということだそうです。
さらにこの後、ダブルパンチでナルキッソスの話が続きます。ナルキッソスはナルシスト野郎の語源の通り水面に写った自分の顔に惚れる野郎ですが、実はこれ彼のもともとの性質ではありませんでした。かわいそうなエコーから逃げてしまったことに対して他のニンフ達が腹を立て、復讐の女神に訴えて、ナルキッソスに罰を与えたのです。ナルキッソスには、池に写る自分の姿が、一度も見たことが無いような美しいニンフの姿に見えるようになってしまったのです。
「美しい水のニンフさん、どうか、へんじをしてください。」
ナルキッソスは、たのみました。けれども、水のなかの顔は、けっしてナルキッソスにこたえませんでした。いつかのエコーとおなじように、ナルキッソスの心も、はじめてかなしむことを知りました。あんなに美しかったナルキッソスは、やがて、やせて、あおざめ、見るかげもなくなりました。
エコーの友だちのニンフたちは、それを見ると、ナルキッソスがかわいそうになって、
「女神さま、どうか、あの若者を、もう、ゆるしてやってくださいまし。」
と、また、おねがいしました。
このねがいは、ききいれられました。銀のようにきよらかな池のそばに、ある朝、一りんの花が咲いていました。かなしみにやせほそったナルキッソスは、消えてしまったのです。そして、美しいキズイセンの花になったのでした。
ええー。また悲しみによる変身+喪失。これを読んだときの寂寥感と言ったらなかったですよ。マジで悲しい。現代ドラマやら小説やらではやたらに人を殺して喪失感を演出するわけですが、ここに古代ならではの変身をぶちこまれると喪失にいろどりが加えられて一層引き立ち、心をしめ殺しにかかられます。現代で変身と言って思いつくのはFF4で石になって主人公たちを助けたパロム・ポロムくらいですかね。つってもこいつら復活するしありがたみが全然ないですね。類する話が思いつかない。。
他にもホメロス二部作「イリアス」「オデュッセイア」の読みやすい要約版も入っておりこれ1冊で生きたギリシア神話を概観することができます。おすすめの一冊。こども向けではあるものの私がこの本を借りたら出版から8年経っているというのにめちゃんこ綺麗でした。紐しおりも初期状態。つまり誰も読んでいない。これ、全国各地の図書館でホコリを被っているだけの本だと思います。皆さんどうぞ借りてあげてください。そうすれば、この本の中で生きている神々も大喜びすることと思います。
関連書籍
つぎは原著を読もう。
- 作者: ホメロス,Homeros,松平千秋
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1992/09/16
- メディア: 文庫
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オデュッセイアは彼の10年にわたる帰国譚ですが、これもジョジョ第三部的に次々現れる敵スタンドを倒していく話でした。DIOは自国民です。