書籍レビュー: 飯野一、小出浩平 - はじめての人のマーケティング入門(かんき出版)
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マーケティングとは何か
本書はマーケティングの入門書です。マーケティングとは、『企業が効率的に売上を上げ、利益を獲得していく仕組み』であると冒頭に記述があります。
我々は物質的制約・時間的制約・金銭的制約のもとに生きています。商売のために割くことができる時間・労働力・金銭は限られています。限られた資源をどうすれば最大限に活用することができるのか、様々な先人たちの知恵を結集したものがマーケティングです。マーケティング理論を知らなければ我々の努力は徒労に終わり、費用が嵩むだけで利益が出ず商売が立ち行きません。
理論のポイントを絞り込み実例に重きを置いた米国流の本
この本はマーケティングの理論についてはポイントを絞って簡潔かつ分かりやすく解説し、さらに実例を使って理解を深めるという形式をとります。その簡潔性から、あっという間に読めてしまいます。私は2時間くらいで読み終わってしまいました。かといって内容が薄いわけでは決してありません。
ポイントは具体的には「セグメンテーション」「ポジショニング」「プロモーション」「ライフサイクル」「CS(顧客満足)」「5つの力」以上の6つです。これらをごく実用的に解説する書と言えます。
米国発のビジネス書や心理系本を読んだ方ならわかると思いますが、あちらの本はとにかく実例が多いです!そういえば著者はMBAを学んだ人ですが、この本も実例が豊富でしたね。
セグメンテーションで市場を分割せよ
私はアフィリエイトサイトの作成の参考にしようとこの本を手に取りました。最も重要と感じたのは「セグメンテーション」です。セグメンテーションとは、『お客さんを分割し細分化すること』(引用)です。
私たちは様々な状況の中で生きており、趣味・嗜好・欲求・悩みなど決して一様ではありません。このような人々のすべてのニーズに応えようと思っても決してうまくいきません。先に述べたように資源は有限であり、一つ一つにすべて対応しようと思えば労力が過大になりキャパシティを超えてしまうことは必然です。
そこで、市場を年齢・性別・職業・住所などで分割し最もニーズが多い層に向けて経営資源を集中すれば、資源配分は効率的になりしかもお客さんの満足度も高まる、というのがセグメンテーションの大まかな論理です。
例えば、ベンツを全ての日本人に等しく売り込むのはどう考えても非効率です。ベンツは金持ちがステータスとして乗る傾向が強いのですから、金持ちが憧れるようなカッチョイイ広告をぶち、営業も収入の高い層に向けて行うのが最も効率的です。
ターゲットを絞り込む、という作戦は最近読んでいる山本一郎さんのブログでも散々言われていることです。私は山本さんのことはサラリーマンとしても相当優秀な方だと尊敬しています。
ポジショニングで自社の位置を確定せよ
もう一つ重要なのは「ポジショニング」です。競合企業が存在する業界で自社製品をどのように位置づけ差別化するのか、ということを理論化したものです。自社と競合企業の立場を視覚的に分かりやすくするため、二次元の軸を取って図を作ります(ポジショニングマップと言うそうです)。この本ではマルイ、UNIQLO、パルコなどをX軸に利便性・Y軸にサポートの充実度をとって配置しています。
マップの例としてはこんなものもあります。
ポジショニングマップにおいて自企業と他企業との位置が非常に近接している場合は、どちらの商品を買っても変わりがないわけですから、激しい競争が予想されます。これは効率を大いに落としますから、直ちに位置づけを変更し競合が少なくなる道を選ぶのが賢明です。
セグメンテーションで分割した市場内をポジショニングによって分析し、他の企業との差別化を図って経営資源を最も効率的に配分すれば少ない負担で最大の利益を上げることができます。
株式投資にも役立つ
企業分析においてマーケティング理論も必須のようです。後半の「ライフサイクル」は時系列的な企業の位置、「5つの力」は企業の競争力を図るための指標として優れています。この基準に照らせば企業が今後利益を伸ばしていけるのか、それとも衰退する運命にあるのか予測を立てることができます。株式投資を行う人間にとってもマーケティングは必須の理論であることも分かりました。
買いか
買いです。きわめて分かりやすい上に実用的な本書は一読の価値があります。マーケティングは多種多様の本が出版されていますから、この本を読んだ後でも教材に事欠きません。はじめの1冊としておすすめです。