書籍レビュー: 『すぐに役立つ 少額訴訟・支払督促のしくみと手続き実践文例56』
★★★★☆
60万円までの金銭請求までしかできないけれど、1回で審理が集結してその場で判決が出る、上告もできない超スピード審理が特徴の「少額訴訟」を解説した本です。
裁判費用は最大でも1万円で弁護士も必要なし。訴状を出したら、書記官さんがこういう資料を用意してね~とかここの書き方が間違ってるよ~と親切に教えてくれます。庶民にやさしい訴訟です。勝訴すれば、判決が確定してなくても仮執行で金銭の差し押さえができちゃいます。負けても1万円損するだけ。
「支払督促」は金銭トラブルに絞った、少額訴訟よりももっと簡素な、出廷さえしなくてもよい手続きです。原則、瑕疵が無ければ主張は認められるので、相手方からの異議申し立てが無ければ仮執行~強制執行までできちゃいます。給料不払いや敷金未返還トラブルには、泣き寝入りしないでぜひこの制度を活用するべきです。
相手方が離れた地にいたとしても、次のシステムを使えば遠隔地の裁判所まで行かなくても督促出来ちゃいます。
よくまとまっている本でした。
書籍レビュー: 『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』 永田カビ
★★★★★
レズ風俗のレポというよりも、作者の心象風景がメインとなる作品です。
人生で一度でも挫折の経験がある人は、彼女の根底にある真っ暗なものとシンクロして、心が揺さぶられるのではないかと思います。個人的には、以前自己評価がマイナスになっていた時期の記憶が耳かきでほじくり出されるような気持ちがしました。いい作品です。
パン屋のお兄さんのシーンが見所です。
amazonレビューが好悪極端に割れていますね
関連リンク
連載中。こちらの方が苦しいです
前の家の長女は一人暮らしできたのかな。
書籍レビュー:「普通」が差別を生む 『非婚の親と婚外子』 編:婚差会
★★★★☆
日本国では、婚姻関係にない男女から生まれた子は民法で「非嫡出子」として扱われます。法務省編の戸籍法の解説書には「非嫡出子は、正常でない家族関係における子」と記述されています(法務省民事局内法務研究会編「改正国籍法・戸籍法の解説」1995年)。
この本が書かれた2004年現在では非嫡出子は法律上の差別があり、民法900条4号で法定相続分が嫡出子(婚姻関係にある男女から生まれた子)の1/2となっていました。この規定は2013年12月に撤廃されました。
法律ですら差別がありますので、「非嫡出子」を「普通ではない」とみなす「常識人」は数多くいます。
第一章では、結婚生活が破綻し前夫が離婚に応じないまま次のパートナーとの子供を妊娠したため、民法772条の「離婚後300日を経過しないまま出産した子は前夫の子と推定する」という規定に苦しむ女性の話が描かれます。彼女は「普通はたくさんの人に祝福されてきて生まれる子のなのに、この子は私とパートナーしかいなくてかわいそう」と苦しみます。いやあなたとパートナーだけでいいじゃないの!!!なんでだめなの!
第三章、妻子持ちの男性との子を出産した女性が、男に「こいつも不幸やなあ。重い荷物背負って、差別されながら生きていかなあかんなあ」と言われます。男はカッコつけたつもりなのでしょうが、女性は次のように言います。
「そんな風に一番差別しているのは、父親であるあなたでしょ」(P53)
第四章は、シングルマザーが大阪府議の後援会事務所で議員に
「なんや、未婚の母か。そんなふしだらな人が自分の事務所に来てると言われるとなぁ(中略)あんた、子どもにかわいそうなことしたなぁ。これから就職やら結婚やら、いろんなところで差別されるで」(P70)
と言われた上にセクハラされるという胸糞悪い話です。この女性が議員相手に訴訟を起こして勝つまでのストーリーがスカッとするのが救いです。
3つのストーリーで共通して出てくる単語は「かわいそう」です。「かわいそう」という言葉には、裏に差別が含まれています。「差別されるからかわいそう」ということですから、差別を認めていることになります。単純化すると
「婚外子」→「普通ではない」→「かわいそう」=「差別」
となります。
人間は「普通」であることに安心し、「普通でない」ことに対して不安を抱きます。そして「普通」は国家が法律をもって決めます。国家が決めた「普通でない」ことにはペナルティがついたり、「普通」であることには税制上の優遇などのエサがつきます。
犯罪は他人の人権の侵害となるのでペナルティを受けて当然ですが、婚外子であることになぜペナルティがつかなければいけないのでしょう?近年、婚外子に対する法律上の差別は存在しなくなったので、あと残っているのは人間の差別心だけです。
婚外子差別は、特に夫のみが働く共働きでない婚姻関係のある世帯に顕著です。なぜなら、夫名義の財産は夫婦共有と考えられている場合が多く、夫の財産に対して相続権を持つ婚外子の存在は夫婦の共有財産の侵害と認識される場合が多いからです(P161~162)。妻の夫への経済的依存性のため、不実の夫に向けられるべき怒りが婚外子に向かってしまい「婚外子は加害者」という誤った差別意識が生まれる、という構造です。近年の低収入化による共働き世帯の増加によって婚外子差別は薄れていくかもしれませんが、ぼくの周りの話を聞くだけでもまだまだ遠い先のことに感じます。
日本の婚外子がいまだに全体の2.1%しかいないのは、婚外子のほとんどが中絶されているからです。
この記事でも書きましたが、本書でも「血縁関係や家族の形態よりも、養育を通した人間関係が重要である」という意見が、婚外子本人の立場からいくつか書かれています。
最後に次の記述を引用して終わります。
子にとって婚外出生は罪でない。女にとって婚外出生は恥ではない。
それは、人としての自然な営みの一つの形に過ぎない。(P249)
またクソレビューが書かれているので転載してしまいます。
トップカスタマーレビュー
書籍レビュー: 血よりも関係性『ラブ・チャイルド』 編集:福島瑞穂
★★★★★
1991年出版の本、編者は元社民党党首の福島瑞穂さんです。彼女が国会議員になる前の著作ですね。福島さんは弁護士の海渡雄一さんと事実婚で子供を産むという選択をしています。話がそれますが「事実婚」という言い方は「婚姻」に囚われていて嫌ですね。1991年時点では民法900条非嫡出子に対する法定相続分が嫡出子の半額であるという差別が残っており、福島さんはこれにずっと反対していました。2013年9月4日に違憲判決が出て法律が改正されるまでの経緯をぼくは知らないので、いずれ調べてみたいと思っています。
本書は福島さんと、非嫡出子である落合恵子さん・尹照子(ユン・チョジャ)さんとの対談が第一部、複数の非嫡出子の手記が第二部、福島さんのエッセイが第三部、という構成です。
とりわけ衝撃的だったのが落合恵子さんとの対談です。落合さんのことはクレヨンハウスに何度か行ったことがあるので名前は知っていましたが、どのような方かは全く知りませんでした。落合さんの父はのちに国会議員になる矢野登という人で、落合さんの母とは同居せず、数年に1回落合さんと会う、というような関係だったそうです。
落合さんは父親のことを椅子に例えます。いつも同じところに椅子があれば、ある日突然それが消えたときに、椅子がなくなったことを意識する。でも初めから椅子がなければ、椅子がなくなったとは思わない。そんなものだと言っています。
落合:私が「普通の」とか「普通」というスタンダードに抵抗を覚えるのは、「普通」というときの基準が多数派の意識に成立していることであり、それ以外の人にも、それぞれの「普通」があることを切り捨てていることにあるのね。同じく、ある人の不自然が、ある人には「自然」であることもある。そして私の生まれ育った環境では、父がいないことが私の「自然」だったということです。(P11)
そして、彼女は生物学的な親子関係、いわゆる「血」は全く重要ではなく、「共に育ち合い、共に生活してきた記憶も感覚もない(P12)」人を「父」を呼ぶことは不自然だった、と言います。似たようなことはもう一人の対談者である尹さんや手記を書いてくれた人達も言っていました。
落合さんは親子関係も対等であるべきと考えます。
落合:子どもは愛情をそそぐ対象であり、それゆえラブ・チャイルドだと考えられるのは抵抗あります。つまり、子どもはそこでも、大人から見れば受け身の立場になるでしょ?男から見れば女がそうなるように、子どもと大人の関係性も、たとえ愛情においても、上下になってしまう危険性は注意深く見ていかなきゃいけないと思う。すべて上下はイヤ、なのね。
福島:愛情をふりそそぐという点ではどこかに同情があるかもしれない。
落合:本を「与える」というのと同じ言い方。上から下へという形は、どんなに善意から発したものでも、ね。
他の所でも何ヶ所か記述があるのですが「同情」「思い入れ」も対等な関係ではなく、力や立場の上下を前提とするものなので、落合さんはこれらを嫌います。
ここからは個人的な話です。
前の家では子どもとの関係は対等ではありませんでした。元配偶者の気に入らない学校はやめさせ、家に閉じ込め、必要な教材や本を「与えてやる」という一方通行な関係でした。子どもは親の所有物であり、自由は全くありませんでした。で、ぼくはその一方通行の通路にさえ入ることを許されなかったので、関係性すらありませんでした。
時間が経つにつれて、前の家の子どもたちの「自然」にぼくは存在しなかったことになるのでしょう。それはそれで、仕方のないことですね。
婚外子のことを調べるつもりでしたが、気持ちのベクトルが別に向いてしまった本でした。
Amazonには「婚外子が蔓延すると近親婚が増えるから遺伝的に問題がある、だから法律上禁止されているのだ」といった支離滅裂かつ差別主義的なクソレビューが書かれています。
書籍レビュー: わかりやすく情報も的確 『図解 よくわかる大人のADHD』 著:柳原洋一、高山恵子
★★★★★
ぼくは小学校の時多動でした。授業中にはじっとしていないし、質問される前に答えをすぐ言ってしまうこどもでした。運よく、小学校の担任が多動を面白がってくれる教師だったので、嫌な思いはせずにすみました。
中学校に入って多動は治まっていたと考えていましたが、この本を読んだら全然治まっていなかったことがわかりました。
ADHDの主な「困りごと」として挙げられているのは次の10項目です。
- 集中できない:話を聞いている途中で内容がわからなくなる
- 計画的にできない:物事の優先順位がつけられない
- 人の話が聞けない:思いついたことをすぐに言いたくなる
- 先延ばしにする:面倒な用事に手が付けられず、なかなか着手できない
- 忘れっぽい:今なすべきことを意識し続けられず、自分の役割や置かれた状況を忘れてしまう
- 飽きっぽい:刺激や変化の乏しい状況に耐えられない。単純作業ができない。
- 自制が効かない:何事にもはまりやすく、ゲーム・お酒・買い物などの依存症になりやすい
- プランが立てられない:アイデアはあるが具体的な形にするのがおっくう
- 事故にあいやすい:ケガをしやすい、交通事故を起こしやすい
- 退学・失業・離婚が多い:ドロップアウトしやすく長続きしない
いかがでしょうか。1~5については現時点でもぼく自身に身に覚えがあります。かつては7、8でも困っていました。
本書は、成人してもこれらの症状が治まらない人を対象にしています。日本では極端に認知度が低く、精神科医でも知らない人が多数で、2008年にADHDの治療薬の一つであるリタリンが成人に投与禁止になるほどでした。本書が書かれた2012年時点で、やっとストラテラという薬剤が成人に投与可能となりました。
ADHDの患者には併存障害を抱える人が7割と極端に多く、ASDの発症率は5倍と非常に高確率です。症状自体も自閉症スペクトラムの症状と重なることが多いです。脳機能の偏り、という観点で見れば重なるのも納得がいきます。
ADHDにはドーパミン、ノルアドレナリンといった神経伝達物質が関わっていると言われています。多動なんだからドーパミンが多いんじゃないの?と思っていましたが、逆にドーパミン等が少ないことが原因だそうです。コンサータ・ストラテラは、それぞれドーパミン・ノルアドレナリンの再取り込み阻害を担い、神経伝達を活性化します。抗うつ薬であるSSRIがセロトニンの再取り込み阻害を行うのと原理は同じです。
本書の優れている所は、具体的に日常の「困りごと」を解決するためにどうすればいいかかなり細かく書いてあることです。例えば、
- 約束や期限を忘れやすい→webカレンダーのスケジューラーやリマインダーを使おう!
- なくしもの、忘れ物が多い→色別にファイルを作って保管しよう!重要なものは赤!
- うっかりミスが多い→指示や約束を必ず文面に残そう!やむを得ず口頭で済まさなければいけないときは必ず復唱しよう!
- 時間配分ができない→時間に余裕を持たせること!1時間かかる作業は1時間半や2時間予定を取って余裕を持たせて、余ったら休憩しちゃおうよ!
このほかにもたくさんのヒントになることが書かれています。発達障害の入門用と思われる書籍の中では記述が丁寧で、情報量も多くしかも優しさにあふれている優れた書籍です。冒頭の「10の困りごと」に当てはまる人本人やその家族、もしくは大切な人がADHDの症状をもつ人には、自信を持って薦められる1冊です。
(追記)1点腹が立ったところがあります。P112-113の「女性のADHDは生きにくい」という項目です。
日本では(中略)家庭に入った女性は皆、家事ができて当たり前と考えられてきています。ですから、「できて当たり前」の掃除や洗濯をきちんとこなすことができないADHDの女性に対し、世間の風当たりは強いものです。
(中略)
職場仲間や上司のサポートをしたり、コピーをとったりといった雑務を率先して引き受け、正確に早くこなす女性社員は高く評価されますが、こうしたことが苦手な女性社員を見る目は、おのずと厳しくなります。
家事にせよ、会社の雑務にせよ、立場が男性であれば、できなくてもそれほど責められることはないでしょう。(P112)
この本が出版された2013年の時点でも、女性の役割、とやらを押し付ける風潮があるわけ!?古すぎない!?
社会なんて生物進化みたいに人間が恣意的に行き当たりばったりで決めてきた慣習の積み重ねに過ぎないっていうのに、女性であることだけで「世間の風当たり」に翻弄されなきゃいけないなんてばかくさいです。
男性も女性もない、その人独自の個性が尊重される世の中になってほしいものです。
参考書籍
amazonだと並みいるノウハウ本を押しのけて目につく関連本はこれです。
脳を鍛えるには運動しかない!―最新科学でわかった脳細胞の増やし方
- 作者: ジョン J.レイティ,エリックヘイガーマン,John J. Ratey,Eric Hagerman,野中香方子
- 出版社/メーカー: 日本放送出版協会
- 発売日: 2009/03
- メディア: 単行本
- 購入: 31人 クリック: 757回
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書籍レビュー: 社会リズムを安定させる『対人関係療法でなおす 双極性障害』 著:水島広子
★★★★☆
双極性障害は概日リズムに大きな影響を受けます。一度睡眠不足になると大抵は躁の症状が出るので、睡眠時間の確保が重要となります。
本書はさらに「社会リズム」という概念を導入し、転居・トラブル・人間関係のストレスなどをリズムの乱れとみなして、躁うつエピソード再発のリスク要因ととらえます。
双極性障害の患者さんは、感情の振れ幅が大きくそれに振り回されます。それは病気の症状なので仕方のないことです。ですので、感情を安心して表出できる環境を作ることが必要です。例えば「前向きに頑張って」とか「笑っていてほしい」などという言葉は、「後ろ向きになるな」「悲しむな」と言う意味になりますので言語道断でダメです。
SRM(ソーシャル・リズム・メトリック)という社会リズム管理表をつけることを推奨されています。
社会リズム療法 - Lithium-carbonate's Blog
この表、生活時間帯が固定化され過ぎていて窮屈ですね。安定はするのでしょうけれど、これを守ること自体がストレスになるような気がします。
タイトルの「なおす」というところに違和感がありましたが、読み進めると「なおす」のではなく「症状を和らげる」ための本であることが分かりました。疑問点はいくつかありますが著者の人に寄り添う気持ちが感じられる本です。
書籍レビュー: 自傷は戦いの履歴だ『自分を傷つけずにはいられない 自傷から回復するためのヒント』 著: 松本俊彦
★★★★★
ぼくには自傷について「他人にアピールするためもの」という偏見がありました。間違っていました。
著者の考える自傷の定義は次の通りです。
「自傷とは、自殺以外の目的から、非致死性の予測をもって(「このくらいであれば死ぬことはないと予測して」)、故意に自らの身体に直接的に軽度の損傷を加える行為のことであり、その行為が心理的に、あるいは対人関係的に好ましい変化をもたらすことにより、その効果を求めて繰り返される傾向がある」(P32)
自傷は前向きに行うものでした。彼らは、生きていけないほどつらい気持ちに抵抗して、生きるために自傷します。自傷行為の最大の特性は、非致死性です。自殺企図とは無縁のものです。髪をいじる、頭を掻くなど気持ちを鎮めるための自己刺激は多くの人が行っていると思いますが、あれを強烈にしたものが自傷行為なのだなと感じました。自分では抱えきれずどうしようもない闇に対抗するための孤独な手段でした。
次の記述には心揺さぶられました。
その傷跡は戦士の傷跡、あなたなりに「生きるか、死ぬか」の疾風怒濤を生き延びるための戦いの傷跡です。そして、いま現在あなたが生きているということは、その戦いの勝者は間違いなくあなたなのです。(P253)
とはいえ自傷はエスカレートすると生命の危機につながりますので、自傷を和らげるための方法についても多くのページが割かれています。最も基本となるのは「依存先を増やす」こと。誰も信頼できず相談もできないことは自傷のリスクを増加させます。最も気持ちを和らげられる方法は、信頼できる他人に話すことです。しかし、ただ1人に依存してしまうと、その1人の調子が悪くなったり離れて行ったりしたとき、すぐ暗闇に真っ逆さまになります。信頼できて安心できる他人は、多いほどよいです。
パートナーにSOSを出しても反応がいまいちなら保健センターや精神福祉センターに相談しましょう、不快に感じる人間関係は捨てましょう、家族から離れることが必要なら生活保護を受けてでも離れましょうなどとサクッと書いてあって気持ちがよいです。
解離への対処方法、深呼吸や筋トレ、瞑想などの「置換スキル」と呼ばれる気持ちのそらし方などの記述も充実しています。おすすめの1冊です。