書籍レビュー: わかりやすく情報も的確 『図解 よくわかる大人のADHD』 著:柳原洋一、高山恵子
★★★★★
ぼくは小学校の時多動でした。授業中にはじっとしていないし、質問される前に答えをすぐ言ってしまうこどもでした。運よく、小学校の担任が多動を面白がってくれる教師だったので、嫌な思いはせずにすみました。
中学校に入って多動は治まっていたと考えていましたが、この本を読んだら全然治まっていなかったことがわかりました。
ADHDの主な「困りごと」として挙げられているのは次の10項目です。
- 集中できない:話を聞いている途中で内容がわからなくなる
- 計画的にできない:物事の優先順位がつけられない
- 人の話が聞けない:思いついたことをすぐに言いたくなる
- 先延ばしにする:面倒な用事に手が付けられず、なかなか着手できない
- 忘れっぽい:今なすべきことを意識し続けられず、自分の役割や置かれた状況を忘れてしまう
- 飽きっぽい:刺激や変化の乏しい状況に耐えられない。単純作業ができない。
- 自制が効かない:何事にもはまりやすく、ゲーム・お酒・買い物などの依存症になりやすい
- プランが立てられない:アイデアはあるが具体的な形にするのがおっくう
- 事故にあいやすい:ケガをしやすい、交通事故を起こしやすい
- 退学・失業・離婚が多い:ドロップアウトしやすく長続きしない
いかがでしょうか。1~5については現時点でもぼく自身に身に覚えがあります。かつては7、8でも困っていました。
本書は、成人してもこれらの症状が治まらない人を対象にしています。日本では極端に認知度が低く、精神科医でも知らない人が多数で、2008年にADHDの治療薬の一つであるリタリンが成人に投与禁止になるほどでした。本書が書かれた2012年時点で、やっとストラテラという薬剤が成人に投与可能となりました。
ADHDの患者には併存障害を抱える人が7割と極端に多く、ASDの発症率は5倍と非常に高確率です。症状自体も自閉症スペクトラムの症状と重なることが多いです。脳機能の偏り、という観点で見れば重なるのも納得がいきます。
ADHDにはドーパミン、ノルアドレナリンといった神経伝達物質が関わっていると言われています。多動なんだからドーパミンが多いんじゃないの?と思っていましたが、逆にドーパミン等が少ないことが原因だそうです。コンサータ・ストラテラは、それぞれドーパミン・ノルアドレナリンの再取り込み阻害を担い、神経伝達を活性化します。抗うつ薬であるSSRIがセロトニンの再取り込み阻害を行うのと原理は同じです。
本書の優れている所は、具体的に日常の「困りごと」を解決するためにどうすればいいかかなり細かく書いてあることです。例えば、
- 約束や期限を忘れやすい→webカレンダーのスケジューラーやリマインダーを使おう!
- なくしもの、忘れ物が多い→色別にファイルを作って保管しよう!重要なものは赤!
- うっかりミスが多い→指示や約束を必ず文面に残そう!やむを得ず口頭で済まさなければいけないときは必ず復唱しよう!
- 時間配分ができない→時間に余裕を持たせること!1時間かかる作業は1時間半や2時間予定を取って余裕を持たせて、余ったら休憩しちゃおうよ!
このほかにもたくさんのヒントになることが書かれています。発達障害の入門用と思われる書籍の中では記述が丁寧で、情報量も多くしかも優しさにあふれている優れた書籍です。冒頭の「10の困りごと」に当てはまる人本人やその家族、もしくは大切な人がADHDの症状をもつ人には、自信を持って薦められる1冊です。
(追記)1点腹が立ったところがあります。P112-113の「女性のADHDは生きにくい」という項目です。
日本では(中略)家庭に入った女性は皆、家事ができて当たり前と考えられてきています。ですから、「できて当たり前」の掃除や洗濯をきちんとこなすことができないADHDの女性に対し、世間の風当たりは強いものです。
(中略)
職場仲間や上司のサポートをしたり、コピーをとったりといった雑務を率先して引き受け、正確に早くこなす女性社員は高く評価されますが、こうしたことが苦手な女性社員を見る目は、おのずと厳しくなります。
家事にせよ、会社の雑務にせよ、立場が男性であれば、できなくてもそれほど責められることはないでしょう。(P112)
この本が出版された2013年の時点でも、女性の役割、とやらを押し付ける風潮があるわけ!?古すぎない!?
社会なんて生物進化みたいに人間が恣意的に行き当たりばったりで決めてきた慣習の積み重ねに過ぎないっていうのに、女性であることだけで「世間の風当たり」に翻弄されなきゃいけないなんてばかくさいです。
男性も女性もない、その人独自の個性が尊重される世の中になってほしいものです。
参考書籍
amazonだと並みいるノウハウ本を押しのけて目につく関連本はこれです。
脳を鍛えるには運動しかない!―最新科学でわかった脳細胞の増やし方
- 作者: ジョン J.レイティ,エリックヘイガーマン,John J. Ratey,Eric Hagerman,野中香方子
- 出版社/メーカー: 日本放送出版協会
- 発売日: 2009/03
- メディア: 単行本
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