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六帖のかたすみ

DVを受けていた男性。家を脱出して二周目の人生を生きています。自閉症スペクトラム(受動型)です。http://rokujo.org/ に引っ越しました。

書籍レビュー: 私益から他益、公益に至る『ローマ人の物語〈9〉ユリウス・カエサル ルビコン以前(中)』 著:塩野七生

書籍レビュー [歴史・宗教・その他人文]

★★★★★

 

カエサル特集の6冊中2冊目です。虚栄野郎ポンペイウスカエサルが大き過ぎてつぶせない大口債権者クラッススと「三頭政治」を結んだカエサルは、最高権力者執政官に当選し数々の改革をしたのち、現フランス・スイス・ベルギーに相当するガリア地方の平定に向かいます。8年に渡るガリア遠征は彼が自ら「ガリア戦記」を記し、文学的にも一級品である一次資料となって現存しています。本巻と次巻は大部分が「ガリア戦記」を基にしているようです。

私益から他益、公益へ。などなど

気になった個所を引用していきます。

 だがカエサルという男は、「女」や「金」の項でも如実に示されたように、一つのことを一つの目的でやる男ではないのである。

 つまり、私益は他益、ひいては公益、と密接に結び付く形でやるのが彼の特色である。なぜなら、私益の追及もその実現も、他益ないし公益を利してこそ十全なる実現も可能になる、とする考えに立つからである。

この一説は最も感銘をうけました。現代に我々ができる私益から公益の実現とは、積極的な経済活動に他なりません。消費意欲が減退すれば貨幣の流通速度が落ち、不景気となり雇用も賃金も減ります。カエサルはビジネスをやって借金をチャラにし、しかも南仏の経済活動を活性化させてローマの商人に力を付けさせたでかすぎる男でした。

本書とは関係ありませんが、私もそう思います。一千万くらいお金を貯めたら、何かビジネスをやってみたいものです。

 私は、諸々のことをくっつけながらも、カエサルの叙述の仕方、ないし彼の肉声に、可能な限り近づこうと努めるだろう。なぜなら、私の書こうと試みているのは、カエサルという人間である。そして、人間の肉声は、その人のものする文章に表われる。

私の書く文章は、どのような人間性を他人に与えているのでしょうか。

 敵地で闘う総司令官にとって最も直接的な課題は、戦闘指揮とほとんど同じ比重をもつ重要さで、兵糧確保がある。戦争は、死ぬためにやるのではなく、生きるためにやるのである。戦争が死ぬためにやるものに変わりはじめると、醒めた理性も居場所を失ってくるから、すべてが狂ってくる。

この観点から行けば、神風特攻隊は最も不合理な戦闘方法だったことになります。実際、彼らの命中率は1割に満たなかったと言います。そりゃあ兵士は生きたいです。私が戦地に行ったとしたって絶対に生きたい。

 ローマ人は、その中でもローマ人であることを強く意識するカエサルは、誓約をことのほか重要視する。多神教のローマ人だから、神との契約ではない。人間同士の制約である。たとえ異人種でも対等の人間と認めるがゆえに、交わされた誓いを信ずるのである。武士に二言はない、という言葉を持つ日本人の方が、一神教的な契約になれた欧米人よりも、ローマが重要視した人間同士の誓約にこめられた心情をよりよく理解できるのではないかと思う。

確かに神のもと平等、というよりも人間と人間が平等であるとした方が、日本人としては理解しやすいです。しかし、お互いの精神の高潔さが要求されるという欠点があります。戦国時代なんか裏切りの連続ですし、ヨーロッパが人間の上位概念である神を必要としたことにはそれなりに合理性があるんじゃないかな、とも考えます。

現に、カエサルは裏切りに厳しく、裏切ったガリア人の部族を全員死刑にしたり毎回厳罰に処しています。人間と人間の誓約はきびしいものです。

 カエサルは、プロパガンダの重要性を、当時では他の誰よりも理解していた男だった。なぜなら、「人間とは噂の奴隷であり、しかもそれを、自分で望ましいと思う色を付けた形で信じてしまう」からである。

きをつけます。

「あの人が、金の問題で訪れた連中相手にどう対応するかを目にするたびに、わたしの胸の内はけいいでいっぱいになるのだった。それは、あの人がカネというものに対してもっていた、絶対的な優越感によるのだと思う。

 あの人は、カネに飢えていたのではない。他人のカネを、自分のカネにしてしまうつもりもなかった。ただ単に、他人のカネと自分のカネを区別しなかっただけなのだ。あの人の振る舞いは、誰もがあの人を支援するためだけに生まれてきたのだという前提から出発していた。わたしはしばしあ、カネに対するあの人の超然とした態度が、債権者たちを不安にするよりも、彼らにさえ伝染する様を見て驚嘆したものだ。そういうときのあの人は、かの有名な、カエサルの泰然自若、そのものだった」

旧東ドイツの劇作家ブレヒトによる作品中「カエサル氏のビジネス」におけるセリフです。まるで経営者がこうあらねばならないという理想形を示しているようです。

もしカエサルが現代に降臨していれば、ITベンチャー企業からグローバル大企業に成長するグーグル、フェイスブック、アップルのような企業を作ったに違いありません。

今回の紹介は引用ばかりでした。単行本版の1/3の量しかないというのに、感銘を受けた記述の多かった1冊でした。

 

 

関連書籍

つーわけで原著も読んでみたいですね。

ガリア戦記 (講談社学術文庫)

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 リーダーシップについて。

龍馬とカエサル―ハートフル・リーダーシップの研究

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残念ながら彼とビジネスを関連付けた本はブレヒト氏のものしかないようですね。 しかも貴重書で高い。図書館にもないようです。

 

おお、洋書かつkindleなら安いぞ!来年発売だけど、買っちゃおうかな。。

The Business Affairs of Mr Julius Caesar (Methuen Drama)

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