六帖のかたすみ

DVを受けていた男性。家を脱出して二周目の人生を生きています。自閉症スペクトラム(受動型)です。http://rokujo.org/ に引っ越しました。

書籍レビュー: リーマンショックを物語風に味わう『リーマン・ショック・コンフィデンシャル(上)』 著:アンドリュー・ロス・ソーキン 訳:加賀山卓朗

★★★★★

投資で一番怖いのは金融危機による暴落です。7年前にはリーマンショックという未曽有の危機が起きていましたが、当時の私は何のことか全く理解していませんでした。なんか銀行が破綻したせいで世界中が不況になったんだって。以上のことは知りませんでした。

今年に株式投資について勉強を始めると2008年に日経平均は1/2以下に、銘柄によっては1/5とか1/10とか笑っちゃうくらい値を下げているのを見ておお怖や怖や、資産がゴミのようだ。大不況怖い。金融危機怖い。と感じると同時に危機の成立条件やその効果、予兆の現れなどを全て知っておきたいと感じました。リーマンショック解説の定番と評価の高いこの本は読んでおかなければいけない。数か月前からそう考えていました。

結果的には、良い本だが自分にはちょっと時期尚早だったかな、という感想です。

圧倒的な情報量をバックに小説仕立てでリーマン危機を叙述

本書はニューヨーク・タイムズのトップ記者であるソーキンが、自らの人脈を駆使してインタビューやメモ、メール、日程表などを掻き集め、2008年後半の出来事を小説風に再構成したものです。上巻だけで本文360Pに加え、情報源の出所を記したページが22に達し、しかも本文は情報が凝縮されていて一筋縄では読み進められません。驚くべきことに著者は巻末の覚書で

妙なことだが、私にとってのいちばんの難題は、多すぎる情報を処理することだった。

と語っています。これでもかなり情報を削った方だというのです。

人物を中心に物語が展開していきます。主人公?であるリーマン・ブラザーズのCEO、ファルドをはじめ、主要金融機関のCEOはみな人物のバックグラウンドが説明されどのような人間か分かる描写がされます。みなエリートで天才なのですが、人格的には破綻気味の人間が多いです(でも社会性はある)。登場人物の中ではリーマンのファルド、財務長官ポールソンの二人のキャラクターが際立っています。

まず上巻はリーマン・ブラザーズと同業の投資銀行ベア・スターンズの事実上の破綻から始まります。リーマンもベアと同様にサブプライムローン債権を大量に買っており、破綻寸前の状態となっていました。リーマンを中心として内紛や会計上のごまかしの画策、株価の暴落、危機を回避するための各銀行への合併持ちかけと失敗、AIGメリルリンチにも迫る危機などが描かれ、2008年9月10日にリーマンが過去最大の損失を発表するも赤字部門のスピンオフを発表し株価が少し持ち直し、バンク・オブ・アメリカと最後の合併交渉に入るところで終わります。

アメリカ金融業界の強みと弱み

以下は感想ですが、リーマンショックの本筋からは外れます。全体の感想は下巻を読んでから改めて書こうと思います。

私は本書を読むまでアメリカの金融業界に対する知識はほぼゼロでした。メリルリンチやバンカメの名前は聞いたことがありましたが、実際どのような業界か知らなかったので驚くことばかりです。

まず取締役の報酬が狂っているほど高いです。例えばはてなブログで次のような人気記事があります。

stohspaceg.hatenablog.jp

6000万ドルといえば日本円換算で74億円。もうお腹いっぱいですね。30人ぐらい一生遊んで暮らせる金額です。

ところが金融機関のCEOたちはこれと匹敵するか、それ以上の収入を1年で得ています。次のリンク先の記事によると、本書の登場人物の一人でもあるゴールドマン・サックスのCEO、ロイド・ブランクファインの2006年度の年収は5400万ドルでした。一人でフリーザ並の年収。そして、上には上がいるようです。

business.nikkeibp.co.jp

一体そんな金何に使うんだよ。と言いたくなりますね。

このような高額報酬には利点と欠点があります。投資銀行部門の取締役の報酬は会社の利益が大きければ大きいほど高くなりますから、儲かることはなんでもします。彼らの手下のトレーダーたちの報酬は自分の上げた利益の多寡に左右されます。一攫千金を目指して頭脳をフル回転して最大限の利益を得るべく大きく動機づけられます。彼らは優秀な成績を残し、会社に莫大な利益をもたらします。また投資銀行には巨額の資金が流れ込みますから、得られる利益もそれに比例して巨額となります。

ところが儲かることはなんでもするということは、利益最大化のためにレバレッジを増やして大きなリスクを取る方にも必ず動機づけられるということです。当然、バブルが膨張しやすい構造となります。リスクはやめられません。儲かりますから。74億円も儲かれば「俺たちは大丈夫」という自尊心も肥大化します。誰かがやめさせなければいけないのに、やめさせる人間がいません。

またリーマンなどの投資銀行は、預金が無く投資家からの資金を集めて経営を成り立たせているので自社の株価が重要となります。ですので株価を下げないために、サブプライムローンの評価減を計上しないための画策を続けたり、口先だけで会社の将来性を約束したり何でもやってしまいます。会社の利益を下げないために。

役員の報酬を決めるのは取締役会であり、承認する人間達もみな巨額の報酬を得る人間だから、報酬が高額になるのは当然である、という記述をどこかで読みました。そりゃそうだわな。

頑張れ個人投資家

ヘッジファンド投資銀行は他人の金で投資をするので責任がありません。他人の金に企業の信頼を付けてレバレッジかけまくって儲けられますが会社が倒れても路頭に迷いません。世界をズンドコに引き込んだファルドでさえ未だに資産はいっぱいです。

Richard S. Fuld, Jr. - Wikipedia, the free encyclopedia

一方個人投資家は規模が小さい上に自分の資産が無くなったらいつだってゲームオーバーです。すべて自分の責任。個人投資家にエールを送りたくなってきます。がんばれ個人投資家