六帖のかたすみ

DVを受けていた男性。家を脱出して二周目の人生を生きています。自閉症スペクトラム(受動型)です。http://rokujo.org/ に引っ越しました。

鈴木康之 - 名作コピーに学ぶ読ませる文章の書き方

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コピーライターの鈴木康之さんは1937年生まれ。今でも現役で講演活動をしていらっしゃいます。もう80歳近いのですね、お若いです。

内容

新聞広告を中心とした名作コピーを掲載し、鈴木さんがその文章のどこが素晴らしいのか、どのような点に着目してこの文章を書いたのか、書いた人はどのような気持ちで書いたのか、などを解説していきます。例として使われている英会話のGabaやJTの広告はリアルタイムで駅構内や電車広告で目にしていたので、感慨深いものがあります。

Gabaの広告から学ぶ「差別化」

例えばGabaです。ここでは「差別化」についての解説がされています。日本人は英語コンプレックスがあるので、英会話スクールの需要は今も昔も旺盛であり、そのためスクールは乱立しどこを選んだら良いのかさっぱり分かりません。そこで差別化が必要になります。同業他社と比べてオンリーワンな特性を顧客に提示し、「そうか、ここなら私にぴったりだ」と気付かせるための広告です。Gabaはマンツーマンレッスンを自社の特徴と位置づけ、次のような掴みのコピーで画面の大部分を占める広告を作成しました。

matome.naver.jp

ボディコピー(本文)にもキモがあります。

たとえばあなたがおいしいお寿司を食べたいとき、天ぷらも焼肉も寿司もありますという店より、寿司だけ専門にしている店に足が向くのではないでしょうか。ひとつに集中している方が品質も期待できると考えるから。ぜひ、英会話スクールもその視点で選んでください。Gabaはマンツーマンレッスンだけの専門店。講師も1対1のための独自の指導法を身につけています。あなたをリラックスさせて、のびのび話す場を作る。Gabaのマンツーマンは、他とは違います。

わかりやすく、納得できるたとえ話です。この広告は主に山手線でよく見た記憶があります。解説には書いてありませんが、英会話スクールは主にビジネスマン向けですから、寿司や焼き肉を例に出すところがターゲット層の今日の晩御飯を的確に捉えています。「じゃあ、Gabaにしてみようかな。晩御飯も、ファミレスはやめて焼肉屋にしようかな」と思うこと請け合いです。

以上のように考えさせられるコピーがざっと20はあります。

人と同じことを思い、人と違うことを考えよ。

最も考えさせられた文句です。養命酒の広告を題材に、この言葉についての解説があります。前段は想像力について。多種多様な仕事に従事し一様ではない立場の人間が毎日生活し、どのようなことを考えているか想像し、言葉にする。その上で、想像した人間ともまた少し違う視点でものを見てみる。それが後段の「人と違うことを考える」ということです。いろんな人の「あたりまえ」をちょっと変わった言葉で取り上げる。すると次のようなコピーが生まれます。

30分半身浴するくらいなら、30分早く寝たい。

これは冷え性の女性を想像して書いた言葉です。

1年が過ぎるのは早いが、1日はなかなか終わらない。

これは疲れた男性を想像して書いた言葉です。いずれも、ターゲットとされている人間にとっては極めて実感が湧いてくる(人と同じことを思い)内容であり、かつ、言われてみればそうだけど自分で意識したことがなかった(人と違うことを考えよ)内容ではありませんか?

これらのコピーのあとに、「そんなあなたに養命酒・・・」というボディコピーが続いていくわけです。よくできてますよね。

天才なんかいない。いい文章を書くには、勉強と訓練しかない。

この本で学べること最も大事なことは、上のようなことだと思います。1つのコピーを書くためには、その何倍もの文章を書いて、さらにそれを何度も手直しせよ、という記述があります。プロでも言葉は大目に書いて、削っていく作業が重要だそうです。努力の必要な世界です。

著者の鈴木さんは、いいコピーに出会ったら必ず、まず何度も読み返すそうです。そしてそのコピーのどこが優れているのか研究し、自分の作品に取り入れていくという作業をずっと続けているそうです。ごく当たり前のことなのでしょうが、何事も努力しかないと超ベテランの方に言われるとうなずくしかありませんね。

買いか

買いです。これは文庫ですから、フルプライスでも十分おつりが来ます。自分としては学ぶところが大きかったと感じています。ただ1点気になるところがあり、日野原重明さんの新聞コラムを読むと感じることと同じなのですが、著者は謙遜しているつもりで「自分はこんなことやってきたんだぜー」という言いたがり感情が見えるところがあります。そこは年長者のご愛嬌、内容に期待してください。

なお、もう一点感動したところとして、書き出しのアンドレ・ブルトンにまつわるエピソードがあります。これは紹介するとつまらないので、ぜひ読んでみてください。。